4. 面(おもて)について

更新日:2024年08月20日

(おもて)とは

  演者の演技に加え、強い存在感と魅力を持つのが能面です。能楽研究者の横道萬里雄氏によると、現在知られている面種は約250におよび、大谷節子氏は「これほど豊富な種類の面を使う演劇は世界に類を見ず、能はまさに面の演劇である」と述べています。

能面の魅力

  同じ登場人物であっても、用いる面の種類は演者や演出、流派によって異なり、それによって表現が変化するところに能面の大きな魅力があります。

 

  能『定家(ていか)』は、歌人・藤原定家と式子内親王に関する伝説をテーマにした物語で、生前に愛した定家からの執心を受けて、死後も苦しむ式子内親王を描いています。
  ここでは一例として、後シテ(式子内親王の霊)が「増女(ぞうおんな)」「痩女(やせおんな)」という面をかけたときの表現の変化について、ご紹介します。
  まず、「増女」という若い女性面をかける場合には、式子内親王はかつての美貌の女性としてあらわれ、その苦しみは内面的なものとして表現されます。一方で、「痩女」というやつれ果てた中年の女性面をかける場合には、彼女は若さや美貌を失った姿であらわれ、苦悩が生々しく描かれます。

 

  また『高砂(たかさご)』の後シテ(住吉明神)は、多くの場合「邯鄲男(かんたんおとこ)」という、気品のある若い男面で演じられますが、目に金環が入った「神体(しんたい)」という面を使用する場合もあります。「神体」を使用することで、後シテは超自然的な存在であることが暗示され、舞台はより高揚した雰囲気に包まれます。

 

  演劇評論家の土屋恵一郎氏が論じるように、「能面は能の作品から幾つもの異なるメッセージを引き出してくるもの」と言えるのです。演者が作品をどのように上演しようとしているのか、能面を手がかりとして解釈してみることは、能面を知るたのしみの一つとなるでしょう。

参考文献

・大谷節子(2016)「弘安元年銘翁面をめぐる考察」神戸女子大学古典芸能研究センター編 『能面を科学する:世界の仮面と演劇』勉誠出版、3-36頁
土屋恵一郎(2001)『能:現在の芸術のために』岩波書店(岩波現代文庫
戸井田道三(1988)「狂言面の用法から」後藤淑編『仮面』岩崎美術社、109-134頁
中村保雄(1996)『能面:美・形・用』河原書店
横道萬里雄(1987)『岩波講座 能・狂言IV:能の構造と技法』岩波書店

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